約 431,313 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1825.html
SS『久しぶりの人生相談』 「ねぇ。人生相談があるんだけど。」 「お、久々に聞いたな、その台詞。」 大学に通い始めて少し経ったある日、俺の部屋にやってきた桐乃が、口にした台詞だ。 「でも、そういえば、前に、"最後の"、って言ってなかったっけ?」 「あ、あたしは最後にするつもりだったの!でも、あんたがどこにもいくな!って言ったんじゃん!だ、だから、最後じゃなくなっちゃったの!悪い!?」 「へっ、悪くなんかねーよ。」 むしろ、嬉しいくらいだ。口には出さないけどな。 「で?今度は、どんな相談なんだ?」 「ふん、当ててみれば?」 「いきなりハードル高けえな、おい。ノーヒントかよ!」 「あんた、あたしのこと好きなんでしょー?だったら可愛い妹が何を望んでるか、わかるっしょ?」 ニヤニヤしながら言ってくる。 当てて欲しい、って望んでることは分かるけど、それが何かまでは分かんねーよ! ヒントでも無けりゃ、分かるわけねーっての。 仕方なく、何と言ってやろうかと、しばらく考え---。 「お布団デートとか?」 「なっ!ばっ!ばっかじゃないの!なんてことゆーのよ!あんたはっ!」 真っ赤になってまくしたてる。 へへっ、相変わらず予想外のことに弱い妹様だ。ちょろいもんだぜ。 「大体、あんたが望んでることでしょっ!それは!つーか、妹と何する気なの!あんたは!」 「だから、お布団デート。」 「だから、じゃないっ!」 「じゃあ、お布団添い寝?」 「じゃあ、ってなに!?てか、いっしょのことじゃん!」 「一緒に寝てるんだから、デートじゃなくて、添い寝かな?と。」 「添い寝かな?、じゃないっ!」 「そんなに興奮されると困るんだが。」 「こっ!興奮してるんじゃないっ!」 朝っぱらから元気なやつだ。 「はぁっ、はぁっ、、、、。はぁー。、、、あんたってば、つくづく、この状況を楽しんでるよねー。」 「まあな。両想いの妹といっしょの生活、ってのも、つくづく波瀾万丈の人生だと思うが、どうせなら、楽しまなくちゃ損だろ?」 「ったくもー。」 仕方ないなぁ、と言うカンジで苦笑している。こういう嬉しそうな仕草を見ることが、昔に比べてずっと増えてきた。 それにつられて、こっちも嬉しくなるってもんだ。幸せってのは、こういうことを言うのかもな。 「で、人生相談ってのは?せめて、ヒントくらい、くれないか?」 「ヒントねー、、、。」 人差し指を唇に当てて考え込む素振りを見せる。最近、こういう何気ない仕草でも、気になってしまうことがよくある。 以前は、そんなことはなかった気がするのだか、何故だろう?と考えてみて、思い当たった。 何のことはない、俺自身がただ素直になっただけのことなのだろう。 ずっと、俺の妹がこんなに可愛いわけがない、と思い込んで、それ以上考えないようにしていたことを、今では素直な気持ちで考えられるようになったってことか。 、、、なんか、だんだんと赤城のことを馬鹿にできなくなっているよーな気もするが、、、。まぁ、いいさ。 素直になって、幸せを感じられることが増えたってことは、悪くないんじゃないかと思う。 、、、こう書いていくと、惚気話っぽく聞こえるかもしれん。そんなんじゃないと思うのだが、どうだろう? 「じゃあねー、、、"夏"。」 桐乃が出してきたヒントがそれだった。 うーん、夏、、、夏ねぇ。定番で言ったら、"海"、かな。でも、泳ぐには少し早い気もするが、、、。 だが、そこで終わらないのが、今の俺だ。 泳ぐってことは、水着か。ちょうど今の時期くらいから、新作の水着とかが出ているんじゃないだろうか。てことは---。 「買い物か?」 桐乃が目をぱちくりさせる。 「当たり、、、だけど、、、なんで分かったの?」 「ふっ、、、愛の力だ。」 「、、、言ってて恥ずかしくない?」 「、、、言うなよ、恥ずかしいだろ。」 ばかじゃん、と言って、楽しそうに笑う。 「じゃあ、当てたご褒美に、いっしょに買い物に行ってあげるよ。嬉しいっしょ。」 「相談なのに、ご褒美なのか?」 「当たったのは人生相談の内容じゃなくて、望んでることのほうだったからねー。」 じゃあ、人生相談の内容は違うのか。でも、それに関連することなんだろうな、きっと。 とりあえず、頭の片隅に留めておくとしよう。 ------------------------------------------------ いっしょに買い物に来たのはいいが---。 女性モノの水着コーナーに女の子といっしょに入るのは、かなり勇気が必要だ。 前にもあったことではあるが、慣れるようなものでもない。 おまけにモデルをやっている妹といっしょなもんで、周囲の視線が集まりすぎる。 周りから見たら、どう見えてるんだろうな、、、。 そう思って耳を澄ましてみると、 「見て見て、すごい可愛い娘だよねー。彼氏は冴えないけど~(笑)」 「ホントホント~(笑)」 「あいつ、冴えねーツラしてるくせに、あんな可愛い娘と、、、マジムカつく。」 、、、冴えなくて悪かったな!聞き耳なんか立てるんじゃなかったよ、、、ちくしょう。 そんな俺の思いを他所に、あっちこっちを楽しそうに見て回っている桐乃。 なんか、夏コミで、同人誌をあっちこっち見て回っていたのを思い出す。 どっちも同じように楽しいんだろうな。きっと。 男の俺としては、買い物なんて何ヶ所も回るものじゃなくて、そこにあったものを買う、って感じなんだが。 でも考えてみれば、オタクがゲームショップやアニメショップをハシゴするのと同じようなもんか。 店によって品揃えが違うのだろうが、知らない人から見たら一緒にしか見えないだろうしな。 そんな、とりとめもないことを考えていると、あちこち見て回っていた桐乃が、幾つかの水着を持って戻ってきた。 「試着するから、コッチ来て。」 言われるがままについていったはいいものの、着替えている間、ずっと待ってるのが非常に気まずい。 シャッ! カーテンが空いて、桐乃が姿を見せる。 「どう?コレ?」 どう答えればいいんだよ、コレ。 モデルをやっているだけあって、スタイルはいいし、選んだものもすっげー似合ってる。 でも、たぶん、他に選んだものを見ても、同じように似合ってるだろうし、どれが一番良いかなんて選べそうに無い。 何より、桐乃の水着姿を目の当たりにして、前に見てしまったマッパが脳裏を駆け巡ってしまって、頭の中がそれどころじゃない。 思わず、視線を逸らしながら、 「い、良いんじゃないか?」 と無難な返事を返す。 「なにそれ、テキトー。」 しまった、これはこれで怒らせちまったか。俺は真っ赤になりながらも、なんとか視線を戻す。 「は、恥ずかしいんだよ、なんか。でも、か、可愛いんじゃないか?ほ、他のも試してみたらどうだ?」 「うん、そーする。ちゃんと見ててよ?」 とりあえずカーテンが閉まる。ほっと一息。 結局、5着ほど着替えた結果、最初のやつにすることにしたらしい。 理由を聞くと、『あんたが一番真っ赤になってたから。』とのこと。 俺が真っ赤になってたのは別の理由なんだが、そんなの言えるわけがない。 むしろ、さっきのイメージが焼き付いちゃって、いろいろとヤバイんだけどな。 ------------------------------------------------ 店を出たあと、おしゃれなケーキショップで一休み。 そこで俺は、ふと思い付いた質問をしてみた。 「それ、モデルの仕事とかで着たりすんの?」 「これ? これは仕事では着ないけど? つーか、仕事のときは、基本的に用意してもらったものを着るし。」 それを聞いて、何故か、モヤモヤした気分になってしまう。なんだこれ? 前に水着特集とかで、水着を着てたのは、雑誌を見て知ってんのに。 「、、、また、モデルとかの仕事なんかで、水着を着たりすんのか?」 いかん。なんか聞き方にトゲがあったかもしれん。 でも、正直に言わせてもらうと、他のやつらに自慢したいけど、他のやつらに見せたくない。 どーしろってんだ、一体。 「なーに?あんた、あたしに仕事で水着とか着てほしくないワケ?」 ニヤニヤして聞いてくる。あれ?怒ってないのか? むしろ、上機嫌になっているよーな、、、。 「へへっ、どんだけシスコンなんだってーの。」 嬉しそうに笑う。 「でも、さ。」 「え?」 「あんたがもし、、、もし本当にイヤなんだったら、水着の仕事はやめる。」 「やめる?」 「そう。だから、正直に答えてくれる?」 首を傾げて、顔を覗き込むようにして、そう聞いてくる。 そんな不意の仕草に、ついドキッとしてしまう。 だけど、桐乃の真剣な眼差しを見て、俺は素直にありのままの気持ちを伝える。 「、、、正直に言うと、やっぱイヤなんだけどさ。でも、、、。」 「でも?」 「それでおまえの可能性を潰してしまうのは、もっとイヤなんだよな。」 「、、、。」 「前の渡米の時は、おまえが無理してると思ったから、無理やり連れ戻したけどさ。」 「今回はそうじゃねえだろ? だから、、、イヤだけど、続けて欲しい、ってのが正直なところだ。」 「、、、シスコン。」 「ほっとけ!」 「じゃあさ、これからもし、そういう仕事が入ったら、あんたに相談する。で、内容を見て、受けるか受けないか一緒に考える。それならどう?」 「、、、おまえはそれでいいのか?」 「あたしも、あんたがイヤだっていうのを、そのままやりたくないし。できれば一緒に考えて決めてほしいかな。」 「、、、そか、わかった。じゃあ、それで頼む。」 「ん。わかった。」 満足そうな笑みを見せて、ケーキを食べ始める桐乃。 なんか、俺、桐乃のマネージャーみたいだな、、、。でも、それはそれでいいのかも。 そしたら、ずっと一緒に居られるし、加奈子んときみたいなカンジで、割と俺に合ってるのかもしれん。 そんなことを考えながら、コーヒーを一口飲んで、別の質問を問いかける。 「じゃあさ、今日買った水着は、いつ着るんだ? あやせとか加奈子とかと遊びに行く時とか、か?」 「ま、まあ、そんな感じ。」 なんか、らしくないな。いつもならもっとハッキリと答えるのに。 そこで俺はさっきの件に思い当たった。そういうことか。 「桐乃。帰りにちょっと寄り道しても良いか?」 「へ?う、うん、別に良いケド?」 ------------------------------------------------ 帰り道で、千葉ポートパークに足を向ける。ポートタワーといっしょにオープンした海沿いの公園だ。 二人で夕日を眺めながら、海岸沿いに腰掛ける。 「あんたと、こんなところに来るなんてねー。」 「まあな。」 夕方になると、まだ少し肌寒い。 しばらくの沈黙のあと、俺は桐乃に話しかけた。 「さっきの人生相談だけどさ。」 「うん。」 「思い出作り、ってことか?」 「、、、、、、そう。よく分かったね。」 みんなで遊んだ思い出なら、この二年間でたくさん増えた。でも、二人きりで遊びに行った思い出となると、それに比べると少ない気がする。 すれ違っていた時期もあったぶん、余計にそう感じるのだろう。 「桐乃、、、。」 そして、たぶん、桐乃もそれを感じているのだろう。 俺は、桐乃の頭にポンと手を置いて、言ってやった。 「思い出なんて、これからいくらでも作れんだろ、ずっと一緒なんだからさ。」 「、、、だから、子ども扱いすんなってーの。」 ぱしっと手を払い除けられる。 「へいへい。」 やれやれ、しょうがねーな。俺はそっと手を伸ばして---。 「じゃあ、これなら、いーのか?」 桐乃の肩を優しく抱きよせた。 「!」 ビクッとして身体を硬直させる桐乃。 「これも、ひとつの思い出、だろ?」 そう言ってやる。 「ば、ばかじゃん。」 硬直していた力がふっと抜ける。 「調子にのんなってーの、、、。」 と言いながら、今度は俺の肩にもたれかかってくる。 「また二人で、海に来るか。今度は泳ぎにさ。」 「、、、うん。」 、、、へっ、素直になってみりゃ、俺の妹はこんなにも---、なんでもね。 そして、俺たちは、そのまま寄り添い合っていた。 夕日が落ちるまで、二人で、ずっと---。 ------------------------------------------------ 「くしゅん!」 「寒いのか?」 「んー、ちょっとね。」 俺は自分の上着を桐乃にかけてやる。 「へへ、気が利くじゃん。」 「へっ、まあな。」 こんなちょっとしたことでも、声を交わして、二人で笑い合える。 そんな些細なことが、すごく嬉しくて。 そして今、そう感じられることが、すごく幸せで。 「じゃあ、そろそろ帰るか、俺たちの家に。」 そう言って立ち上がり、すっと手を差し伸べる。 「そだね。」 その手を掴んで立ち上がる桐乃。 そしてまた、いっしょに歩き出す。繋いだその手を離さずに。 繋いだ手にきゅっと軽く力を込める。 繋いだ手がきゅっと応えてくる。 お互いの想いを確かめるように。 掴んだ幸せを離さないように---。 ------------------------------------------------ そうして家に帰った次の日の朝---。 目覚めたときに、俺の布団にもぐり込んできて、となりで寝ている桐乃にビックリさせられて。 ---そんでもって、また愛のあるつんつんで怒られる俺なのだった。 Fin ----
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1800.html
ある日、俺が疲れてぼーっとテレビを眺めてたら、 スイーツ特集だか何だかで、焼いたフルーツが紹介されてた。 それを見て俺は、桐乃みたいだ、と思った。 桐乃「んで? どこまで進んでるワケ?」 京介「あー… 水族館デートのとこ、かな」 桐乃「っはあ!? それほぼ序盤じゃん!」 京介「そ、そうなんだけどよ… 仕方ねえだろ? まだ大学のいろいろに慣れてなくて… レポートとかあったし」 桐乃「言い訳乙! ゲームする時間くらい作れるっしょ?」 京介「まあそうっちゃそうなんだが…」 桐乃「ったく… あたしなんか3日で全分岐回収済みだってのに」 京介「…それはそれで、いいのだろうか」 桐乃「何て?」 京介「サーセン」 桐乃「はぁ~~~~~~~… もういいや、エロゲーのことは」 解説。俺は晴れて大学生となった。そして… やはり実家からはちょっと距離があるから、通学のことを考えて 一人暮らしをしてる。 桐乃は高校生となり、実家から通ってる。 つまり、なかなか会えないのである。 まあ、基本的に桐乃が俺の部屋に来るという形で、 何だかんだ週に数回は会ってるのだが。 …俺が実家に頻繁に帰ると疑いを持たれかねないからな。 とは言え、大事な時間に違いはないが、見ての通り エロゲーの話からの俺への罵りと、以前と変わらない感じ。 いや、ほんっと、変わらないのな。桐乃さん流石っす。 とは言え。 桐乃「で?」 京介「で?」 桐乃「どこ連れてってくれんの、こんど」 京介「あ、その話か… そーだな」 桐乃「まさか… 忘れてたわけ?」 京介「違う違う! けど… んーまだ決まってはない」 桐乃「はぁ~~~~? ほんっとトロいよね、あんた」 京介「いやだってよ、俺こっち来てまだ一月経ってねえんだぜ? まだ土地勘ねえしさ」 桐乃「そんぐらいパパっとリサーチしとけっつーの」 京介「思うんだが、こういうのって一緒に考えるとかもアリなんじゃねえの?」 桐乃「…あたしこのへん、あんま来ないし」 京介「いや、俺もまだあまり知らんのだが… いっそ秋葉まで出るとか?」 桐乃「……ダメ、今回はこの辺がいいの」 京介「そーなのか…」 こんな感じ、もある。デートの話だ。デートとは言わないが。 ……一応、途切れずこういうことが続いてる。 しかしこいつも気まぐれで、俺が住んでる街とその周辺って 条件が課せられた。さて、どうしたものか… 京介「…あ」 桐乃「なに?」 京介「そういや、ちょっと前にあった飲み会で訊いた、いくつか」 桐乃「いくつかって?」 京介「こっちのな。夜景がキレイなとことか、これは車じゃないと ムリだけど、他にも美味い店の話とかも聞いたよ。こっちが地元のやつに」 桐乃「…ふーん」 京介「イタリアンっていうかパスタが美味いとこ。どうだ?」 桐乃「…いーよ、べつにゴハンはそこで。つか、さっさと免許れっつーの」 京介「ぐ…まあ夏休みあたりかな。まだこっち慣れてないし」 桐乃「あっそ」 …免許は春休みにとろうかとも思ってたが、引っ越しとかいろいろと バタバタしてたのだ。つか、桐乃は夜景の方にも興味があるらしい。 ……それはそれとして。何か桐乃が機嫌悪そうになったのだが。 京介「……どうした?」 桐乃「は? べつに」 京介「いや、だって」 桐乃「てゆーかさ、飲み会とかってアンタでも呼ばれるんだ」 京介「呼ばれるわ! つってもさっき言ってたのはクラス会っつーか 学科の新入生歓迎コンパってやつだがな」 桐乃「未成年のくせに… 何か大学ってやっぱチャラいよね」 京介「おまえに言われてもな」 桐乃「は?」 京介「何もないっス」 桐乃「…女とかも来たりするわけ?」 京介「そりゃな、さっきの店とか教えてくれたのもそーだったよ」 桐乃「……」 京介「…ん? いや、ただ話しただけだぞ?」 Oh… 桐乃の表情が険しいぜ。そういうことか。 あれ以来、ワリと分かるようになったよ。 だって自惚れとは、もう言えないんだから。 桐乃「……どーだか」 京介「……なわけねーだろ?」 桐乃「アンタ、お節介なことしてたりすんじゃない?」 京介「いや、そーゆーことはまだ…」 桐乃「まだ?」 京介「そんなつっかかんなよ」 桐乃「は? べっつにつっかかったりしてないし! 勝手にすればいいんじゃん?」 そう言うと桐乃はむくれた顔になった。少し顔が赤い。 コイツはコイツで複雑なのだ。 あの期間のことだって、色々考えて… そしてわがままに、付き合ってくれてありがとうと、桐乃は言った。 今は、事実上だろうが名目上だろうが、兄妹。 京介「なあ、桐乃」 桐乃「…うっさい」 それでもお互いの気持ちを知ってしまっている。 京介「桐乃?」 桐乃「…だから、なっんム!?」 桐乃の顔を引き寄せてキスをした。 桐乃は手でぐいっと俺の体を押す。 桐乃「アンタ何 っん!」 構わずもう一度。今度は手を掴んで。 少しすると上体を反らして辛うじて桐乃が離れる。 桐乃「ちょ…っんん!」 追うようにしてもう一度。 結局、俺が覆いかぶさった形になった。 そのまましばらく。桐乃はもう抵抗してない。 一分くらい経ったところで、今度は俺が離れる。 蕩けた表情の桐乃を無言で見る。 桐乃「……」 京介「……」 桐乃「………な、何っ…」 言葉が続かないまま、桐乃は顔を横に逸らした。 京介「…なあ、桐乃」 桐乃「…何」 京介「…俺、一途だからさ」 桐乃「っ!!」 京介「だから、そんなイライラすんなって」 桐乃「…べつにイライラしてないし」 桐乃が逸らした顔を正面に戻して、またすぐ逸らした。 そんな桐乃をまた、無言で見る。見続ける。 桐乃「………っ! な、何なワケ?」 京介「……どうしてほしい?」 桐乃「~~~~~~~~~~~~~っ!」 横目で俺を見ている桐乃。 その顔を手でこっちに向けてまたキスをした。 今度は長く。もう桐乃の抵抗はない。 しばらくすると桐乃は手を俺の背に回して。 桐乃「……きょ…すけっ」 キスの合間にそう呼ぶ声が耳をくすぐる。 甘く、熱を帯びている。 焼いたフルーツみたいだ。 END
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/535.html
75 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12 16 21.74 ID oKnclWHhP [1/10] お昼、そしてスレタイに触発されたので 季節感?そんなもの知りませぬ 夏も真っ盛りのうだるような暑さの休日。 本来ならばエアコンという文明の利器によって楽園となっている家で過ごしているはずの俺は、尊大なる妹の手によってこの暑さの中外へと連行されていた。 ぶっちゃけマジで勘弁して欲しい。 恵まれている妹とは違い、俺の部屋にクーラーなどという物はなく夜は寝苦しいのを余儀なくされているのだ。 昼間のわずかな時間ぐらいそれに浸っていても罰は当たらんと思う。 「ちょっと、あんまり暗い顔しないでよ。てかあんたテンション低すぎ。せっかくあたしと出かけられるんだからもっと喜びなさいよ」 「うるせえよ。人が涼んでるところを無理矢理引っ張ってきたくせに偉そうなこと言ってんじゃねえ」 「いいじゃん。どうせ暇だったんでしょ?」 「確かにそうだけどよ……」 「だったら文句言わない。暑いからって涼しい部屋にばっかりいたら体おかしくなるんだから丁度いいでしょ。――荷物持ちも欲しかったし」 「どう考えても最後のが本音だよな!?」 相変わらず俺の扱いがひどいよねこいつ。自分の兄を召使いか何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。 いい加減このいつの間にか出来上がった上下関係を何とかしてやりたいと思うが、いかんせん この超スペック妹には色んな意味でかなう気がしないのでどうにもならないと半ば諦めている。 おいそこ、ご愁傷様ですとかいらんから。お願いだからやめて。泣いちゃうよ? 俺。 「はあ……もういいよ。で、今日はどこ行くつもりなんだ? アキバか?」 「アキバも行きたいけど、今日は渋谷。ちょっと欲しいものがあるから」 「欲しいもの?」 「そ。というより必要なもの?」 「さっぱりわからん」 渋谷で買えて必要なものねえ……もしかしてモデルの時に使うような化粧品の類だろうか。 そうなのだとすれば、むしろ一緒に来るべきはあやせとか加奈子のほうではないかと思うのだがどうだろう。 同じモデル同士のほうが何かと都合がいいだろうに。 などと思っていたのだが、桐乃の次の一言でそれが勘違いだと判明する。 「水着を買いに行くの」 「水着ぃ?」 まあ、確かに季節柄必要だといえなくも無い。だがまたよりにもよって水着とは……嫌な予感がする…… それから数十分後。はたして俺の嫌な予感は的中していた。 自分の周りには水着水着水着。いたるところが水着だらけだ。しかも女性物。 なんでそんなところにいるのかって? そんなもん桐乃に引っ張ってこられたからにきまってんだろーが! 俺だって勿論拒否したよ? でも桐乃は「いいから」の一点張り。 こんなところ桐乃を放ってでも立ち去りたいが、そんなことをすれば後がどうなるかわかったもんじゃない。 つまり、俺にはここに留まる以外の選択肢が無いのである。ああ、なんと言う無情。 ちょっとそこのお姉さん、俺怪しいもんじゃないからそんな目で見ないで! そこのおば様も、こっち見ながら店員さんに声かけなくていいから! その桐乃であるが、現在水着の試着中である。 どうやらお目当ての水着は決まっていたらしく、ほとんど時間をかけずに水着を見繕っていた。 一刻も早くこの場を去りたい俺としてはありがたい。 76 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12 18 36.84 ID oKnclWHhP [2/10] 「兄貴、ちゃんとそこにいるー?」 「いるよ!」 もう俺のライフゲージは真っ赤っ赤だけどな! さっきから回りの視線が痛くて仕方がない。針の筵ってのはこういうのをいうんだな。身をもって実感したよ。 「んじゃあちょっとこれ持っててよ。置くところ無いから邪魔だし」 「え? お、おっと!」 にゅっと試着室から出てきた手に持っているのは、さっきまで来ていた桐乃の服だ。 こっちをまともに確認せずに手を離すから落っことしそうになった。せめて受け取ったことぐらい確認してから手を離せと言いたい。 桐乃が手を出す際、チラッと見えた桐乃の素肌に不覚にもドキッとしてしまった。 いかん、血迷うな京介。あいつは妹だ。妹なんだ。妹妹妹妹妹妹…… 「あと、これも……へ、変な気を起こしたら殺すかんね?」 「変な気? って、んな!?」 ちょ!? こ、これ、し、下――!? パサッと既に持っていた服の上に落とされた爆弾に、俺の顔が瞬時に沸騰する。 いや、確かにね? 水着着るなら脱がなくちゃだろうけどさ! で、でもこれは―――!? お、落ち着け俺。とりあえず『これ』が目に付くところにあってはマズイ。色んな意味で。 どうにかして隠さないと――そうだ! 桐乃の服の間に挟めばいいじゃねえか! さすが俺! よし、そうと決まれば――。 なんとか視界から『それ』を隠蔽することに成功し、待つこと数分。 シャッという音と共に試着室のカーテンが引かれた。 「ど、どうかな?」 桐乃が着ていた水着は真っ赤なビキニだった。 肩紐の無いチューブタイプの水着で胸元と腰の辺りにある白いリボンがポイントだ。 ちょっと派手な感じもするが、桐乃の普段の活発な印象を思えばそれほどきついものではない。 しかし、俺はそんな水着よりも桐乃の肢体に釘付けになっていた。 中学生とは思えない均整の取れた体。出るところはしっかりでていて、それでいてくびれがヤバイ。 腰元から太ももにかけてのラインがいやに扇情的で―― 「ちょ、ちょっと。なんか視線がいやらしいんだケド……キモッ」 「――ハッ!?」 うぎゃああぁぁあああーーーー!?!? お、俺は今何を考えていた!? ないないない! ありえないから! い、妹の水着姿に興奮するとかありえないから!! そう、さっきの俺はどうかしていたんだ! 「ま、まあいいんじゃねえの? 似合ってる…と思う」 「チッ……これじゃまだ足りないか………まあ、あたしだし? 似合ってて当然なんだケド。 それよりそのいやらしい目どうにかなんない? もしかして妹の水着姿で興奮してんの?」 「そ、そんなわけねーだろうーが!」 「どーだか。あんたシスコンだし? いつ襲ってきてもおかしくないって言うか」 「誰が襲うか!」 そんなに言うなら俺なんて連れてこなければいいじゃん! 何? 俺いじめて楽しいの? 俺、もう帰っていいかな? マジで。 77 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12 21 48.16 ID oKnclWHhP [3/10] 「フン……まあ、あんたの意見はわかった。あともう一着あるからもう少し待ってて」 「ま、まだあるんスか?」 「何よ、たかだか二着じゃん。それぐらい我慢できないの? なんならもっと物色してもいいんだけど?」 「いやあ今度の水着はどんなか俺楽しみだなあ!」 「ウザ」 シャッと音を立てて桐乃がカーテンの向こうに消える。 くそう、どうして俺がこんな目にあわなきゃならんのか。もうさっさと家に帰りたい。 そんでクーラーの効いた部屋でごろごろするんだい。 そんなこんなでぶつくさ言うこと数分後、三度カーテンが開かれる。 もーなんでもこい。きょうちゃん何もこわくないよ。 そう思って振り向いたその先に――――天使がいた。 「ど、どうよ?」 「…………」 何の言い訳もなく見惚れてしまった。 桐乃が着ていた水着は、さっきの水着よりもさらに布の少ないタイプの紐のビキニだった。 薄い浅葱色というのか、青と緑の中間ぐらいの色の布地に白でふちどりをされていて、紐の部分もそのまま白で統一されていた。 さっきよりも布地が少ないにもかかわらず、いやらしい印象はむしろ減っていて可愛らしい。 桐乃のライトブラウンの髪ともマッチしていて、明るい感じにまとまっている。 「兄貴?」 「…………」 ヤバイ、これはヤバイ。何がヤバイってなんか胸がバックンバックンいってる。 顔も赤くなってるのがわかるし、どうしようこれ。 俺の、俺の妹がこんなに可愛いわけが―――! 「な、なんか言ってくれないと困るんだケド」 「う、え、えっと……すげえ似合ってる、と、思うぞ?」 「ホントに?」 「お、おう」 これ以上直視してたらおかしくなりそうだ。 そう思った俺はツイと桐乃から顔を逸らした。 その先にはたまたまとなりの試着してたであろう女性が出てきたところで、目が合ったそのお姉さんはパチンとこっちにウインクした。 随分ノリのいい人だな。俺はただそう思っただけだったんだが、桐乃はそうは思わなかったらしい。 78 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/04/08(金) 12 25 09.64 ID oKnclWHhP [4/10] 「ムッ。ちょっとあんた、あたしがいるのに他の女見てるとかどういう了見なわけ?」 ガッと頭の両サイドを掴まれて、無理矢理桐乃のほうを向かされる。 「ご、誤解だ桐乃。俺はそういうつもりじゃ……」 「うっさい! あんた今日誰とここに来たか言ってみなさいよ!」 「き、桐乃とだろ?」 そんなわかりきったことを何で今更いうんだよ、こいつは。 「そう、このあたしでしょ!? だからね、あんたは―― あ、あたしだけを見てればいいの!! わかった!?」 真っ赤な顔をしてそういう桐乃。 なぜか必死な様子の桐乃に俺は呆気に取られるが、なんとか「わ、わかった」とだけ返すことができた。 「わ、わかればいいのよ」と桐乃は漸く俺の頭を解放した。 「そ、それじゃああたし着替えるから。服返してよね」 「え、も、もういいのか?」 「うん。今日見たいやつはもう見たし、さっきもいったけど今日はこれだけ」 「そ、そうか。で、どっちにするんだ?」 「……あんたには教えない」 まるでひったくるように俺から服を奪った桐乃は、そのまま試着室へと消えていった。 その後、その時に買った水着は、皆で海水浴に行く時に披露されることになるのだが、それはまた別の話。 そしてとある冬の日に、何故かその時にみたもう一方の水着が披露されたのも、また別の話だ。 END -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/697.html
883 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 06 46.82 ID mPZzCrzv0 [2/4] 桐乃の部屋に鍵がかかっていなかったのは本当に偶然なのか 885 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 10 04.67 ID BQi5seIhO [5/7] ミカガミ事件以降ずっと鍵あけてたとか 886 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 10 08.12 ID XUM111AD0 [2/4] そんな訳ないじゃん 多分帰国してからは鍵は掛かってなかったんじゃない? 887 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 11 43.06 ID jcmz+wuGI [5/7] 自室に鍵かけないとか、自室でも出来ることをリビング等の共有場所でやるのは 桐乃がコミュニケーションをもとめてる。 と思うことにしてる! 一巻からリビングでのエンカウント率異常に高いもんなあ 本当に仲わるいと部屋から出ないぞ 888 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 17 36.92 ID BQi5seIhO [6/7] ドラゴン怒りの夜這い 889 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 18 10.87 ID hpNPF+b70 [4/5] きりのが現れた きりのは驚きとまどっている →戦う 逃げる 呪文 プロポーズ 890 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 23 22.99 ID UcKFIc1C0 [2/5] 光の玉で京介を覆ってる桐乃の呪文無効化フィルターを剥がそう 891 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 25 44.91 ID h/OZm6AAO [3/5] 889 →近親婚できる未来のために戦う 駆け落ちしてあやせたんから逃げる 耳元でそっと囁く解けない恋の呪文 全身全霊でプロポーズ 892 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 26 30.05 ID 5YjwamU70 [3/3] 890 先に黒猫を覆う闇の衣が剥がれそうだなw 893 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 29 50.04 ID Rmvx8x+N0 [3/3] 鍵を掛けていないことで、着替えを偶然目撃してしまうイベントまだー? 894 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 32 32.31 ID RKdxGlnk0 [4/5] 呪文無効化を発動させるための天空の剣は天空の花嫁との子供じゃないと装備できないんだよな・・ 897 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 41 57.67 ID hpNPF+b70 [5/5] 「桐乃が誰かに取られるなんて死んでも嫌だ! それくらいなら俺が結婚してやんよ! 」 京介はプロポーズを唱えた きりのは混乱した 899 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 19 47 00.59 ID gmy6XaEL0 [13/15] 897 おお、 ・京介に彼女ができるのは嫌→自分が彼女だからおk ・兄貴が振られて泣いているのはもっと嫌→自分が振らなきゃおk ・自分が一番じゃなきゃ嫌→どう見ても一番です。本当に(ry これら全部解決するな。 901 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 20 01 58.95 ID dLB2MrxCO [5/9] 897 8巻は俺妹Pのあやせルートのシナリオを桐乃フラグを回収しながらあやせノーマルエンドまでやった感じなんだよな ORE「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」がまだ使用されていない 次はこのOREを使用してあやせトゥルーエンドの入口から真の桐乃エンドにいくわけだな 903 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 20 16 05.13 ID Ack6l45k0 [3/5] 897 これを思い出した 京介「俺がしてやんよ!俺が結婚してやんよ!これが…俺の、本気だ」 桐乃「っ、そんな…京介は、ほんとのアタシを知らないじゃん」 京介「現実が!…パンツくんかくんかしてる時のお前がどんなでも、俺が結婚してやんよ!」 京介「もしお前と結ばれることで、どんなハンデがあったとしても」 桐乃「桐乃、妹だよ?世間から後ろ指指されるよ?」 京介「どんなハンデでもっつったろ!!」 桐乃「っ…!!」 京介「妹でも、親に勘当されても、もし、子供を作れなかったとしても!」 京介「…それでも、俺はお前と結婚してやんよ!ずっとずっと、そばにいてやんよ」 京介「ここで出会ったお前は、ただの妹じゃない、桐乃だ」 京介「どこで出会っていたとしても、俺は、好きになっていたはずだ…」 京介「また60億分の1の確率で出会えたら、そん時もまた、お前がエロゲーマーだったとしても、お前と結婚してやんよ」 桐乃「出会えないよ…アタシ、家でエロゲだし」 京介「俺、セクハラやってるからさぁ。ある日、お前んちの窓をパリーンってあやせに蹴られて入っちまうんだ。それで立ち上がるとさ、お前がいるんだ。それが出会い。」 京介「話するとさ、気があってさ、いつしか毎日通うようになる。エロゲも始める。そういうのはどうだ?」 桐乃「うん……っ…ねえ、そん時はさ。アタシがいつも一人でさ、頑張ってクリアしてた…りんこりん、クリアしてあげてね?」 京介「…まかせろ」 桐乃「…よかったぁ…」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1297.html
196 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/11/28(月) 14 15 13.38 ID /tWejDPV0 [2/3] 194 桐乃「ねぇあやせ、これ見て」 あやせ「これって……お兄さんの部屋の動画?」 桐乃「うん。 あいつの部屋にあたしのフィギュアを置いておいたらなにするのかなって思って、 あいつの部屋にあたしのフィギュアを置きつつカメラをセットしておいたの」 あやせ「へ、へえ~」 桐乃「まあ結果は見ての通りおかずにもしないし、スカートを覗きもしないでじっと見つめたり手に取ったりするだけなんだけど」 あやせ「…………」 桐乃「ここ! あいつがあたしを手にとってパンツが見えるかどうかのローアングルから、あたしを愛でようとしたこのシーン!」ピッ あやせ「このシーンがなに? 決定的なシーンだからお兄さんを埋めればいいの?」 桐乃「別にあたしはあいつにパンツを見られるくらい問題ないから。 ……そもそもあいつがあたしのパンツに興味があるのか気になって撮影してたんだし」ボソッ 桐乃「問題なのはそうじゃなくて、こっちのベッドの下なんだけど…… ここの暗がりをよく見てて」ピッ ズズ……ズズズズ………… 桐乃「わかった? あいつがあたしのスカートの下を覗こうとした一瞬、変な顔が見えたでしょ? 京介が振り向いたら消えちゃったけど」 あやせ「えっと……見間違いじゃない?」 桐乃「そんなはずないって! どう見ても虹彩をなくした瞳の女の子がナイフと手錠を持ってベッドの下にいるじゃん!」 あやせ「そ、そうかな?」 桐乃「どうしよう…… あいつの部屋呪われてるのかな? まだあいつには伝えてないんだけど、やっぱり言った方がいいよね?」 あやせ「そ、そうだね。 でも、そんなに気にしなくて良いと思うよ。 その桐乃の言う黒髪の綺麗な女の子はお兄さんが桐乃のフィギュアにいやらしいことをしようとしたら出てきたでしょ? だから、お兄さんが桐乃のフィギュアにえっちなことをしようとしなければ平気だと思う」 桐乃「そうかな……? わかった。一応そう伝えておくね」 ・・・翌日・・・ あやせ(昨日は桐乃に呼び出された後、お兄さんが部屋に帰ってこなかったな…… ……平気だよね?) 桐乃「おはよう、あやせ!」 あやせ「おはよう、桐乃。 今日はすごい機嫌がいいね」 桐乃「そう?いつもと同じだけど。 ところでさ、聞いてよ。 昨日あのことを京介に言ったらさ、あいつ怖くなったから部屋に戻りたくないとか言い出したの。 なんでも前々から変な視線を感じることがあったんだって。 それであたしとしても放っておくわけにいかないじゃん? だからさ、昨日の夜は京介をあたしの部屋に泊めてあげて、一緒に寝てあげたわけ。 そしたらあいつ寝ながらあたしのこと― あれ?あやせどうしたの?」 あやせ「ちょっと用事ができたの」 桐乃「用事?」 あやせ「うん。 ある人に物理的に呪いをかけるだけの簡単なお仕事だから、桐乃は気にせずに先に学校行っててね!」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1741.html
「おい」 「なに?」 ピリピリとした険悪なムードで、一触即発の空気が部屋に満ちている。 こいつが何を考えているのか……いまだに全部はわからない。 付き合ってるのにね。 「おまえ……俺の……!俺のきりたんのデータ消しやがったな!?」 「うん、消したけど?」 「テメー!ふざけんなよ!?いくら彼女でもやっていいことと悪いことがあるだろ!」 「はあ?」 ―――えと、現在の状況を軽く説明しておくと、こんな感じ。 少し前に流行った『ラブタッチ』っていうゲームの続編にあたる『ラブタッチ2』っていうゲームがあって、それが喧嘩の原因。 それに登場する新ヒロイン『きりたん』って妹キャラに、こいつはドハマリしてた。ていうか――画面にキスしてた。 ありえなくない?どう考えても浮気じゃん?たしかに、きりたんはチョー可愛いよ? ぶっちゃけ、あたしも画面にキスしたよ!でも、それはそれ。これはこれなの。 このバカがこれ以上浮気できないように、データを消してあげたってワケ。 で、いまの状況に至る、と。 「はあ?……じゃねーよっ!なんでこんなことしたのか説明しろ!」 「ちっ……わかんないわけ?」 「わかるか、んなもん!」 「あのさー、あんたがきりたんにしたこと考えてみ?」 「俺がきりたんに?普通にデートして愛でてただけだぞ」 「その時点で有り得ないんだけど、まあいいや。その次は?」 「え?……次って、なんかしたかな……」 どうやら京介は本気で分かっていない様子。 ったく、やれやれ……しょーがねーなあ。 誰かさんの口癖を心の中でぼやいて、あたしは京介に告げる。 「あんた、きりたんにキスしたでしょ」 「!な、なぜそれを……!?」 「あんたのゲーム機の画面にキモい唇のアトがついてた」 「ぐぁああああああああああああああああーーーーーっっっ!」 「ヨダレもついてたし」 「ぐぬぅっ……殺せ!いっそ殺してくれ!」 悶絶してる京介。……ちょっとは反省したかな? 「で……何か言うことは?」 「……えーと、恥ずかしい」 「そうじゃないでしょ!」 「な、なにが?それ以外に言うことなんて……ってか!そもそも、おまえが俺のきりたんを消した理由を聞いてねえんだけど!」 「ばかじゃん?いまの流れでわかんないの?」 「わかんねーよ!理由があんならはっきり言え!」 ぜんぜん反省してないしっ!てか、逆ギレしてるしっ! ここまで鈍いとは…………まあ、知ってたケドさ。 もう……ほんっと、しょーがないやつ。 「……あたしが怒ってるのは、あんたがきりたんにキスしたこと」 「え――それだけ?」 「それだけって…………あ、あんたねぇ!」 「いや、待て待て!ちょっと待て……えっと、だな。つまり、だ」 あたしが怒鳴ろうとした瞬間、京介は「どう、どう!」という仕草であたしを宥めてから考えはじめた。 …………なんか猛獣扱いされたみたいでむかつくんですけど。 とりあえず、あたしは京介の答えを待つことに。 そして、しばらく待つと京介はいきなり頭を下げてきた。 「桐乃、すまん!俺が悪かった!」 「え、えっと……あたしが怒ってた理由わかったの?」 「おう……わかったよ。ほんと、俺はどうしようもないやつだな。彼女がいるのに浮気みたいなことしちまって……マジで反省してる」 「……ふ、ふうん。わかってんじゃん……なら、いい、けどさ」 なんと、京介はあたしの怒りの理由をピッタリ当てたのだ! 正直言って、驚いた。普段は鈍いくせに、たまにこういう鋭さを見せるところがドキッとしてしまう。 …………絶対、口には出さないけどね。 「えっと、桐乃?許してくれるか?」 「……しょーがない、許したげる」 「……いや、マジでごめんな」 「いいってば。反省してるんでしょ?」 「もちろんだ。二度とああいうことはしない」 「ん……ならよし」 こいつも反省してるみたいだし、そろそろ種明かしをしてあげようかな。 そこで――あたしはポケットからひとつのメモリーカードを取り出した。 「はい、これ――返してあげる」 「え?なにこれ……え、もしかして……」 「あんたの『きりたん』のデータ」 「おまっ、消したんじゃなかったのかよ!?」 「消すわけないじゃん。そんなことしたら、きりたんが可哀相でしょ?」 「…………冷静に考えてみれば、おまえが妹ヒロインのデータを消すわけなんてないよな」 「気付くのが遅いっての」 あたしからきりたんのデータを返してもらった京介は喜ぶかと思いきや………。 そのメモリーカードをあたしに返してきた。 「なに、いらないの?」 「おう。それはもう受け取らない。今回のことでさ、俺、分かったんだよ」 「なにが?」 「俺の恋人はおまえなわけよ」 「うん」 「だから、いちゃいちゃしたい時はおまえとすればいい――って、結論が出た」 「………そ、そう」 「おい桐乃、まさか嫌とはいうまいな?」 「……なんか目つきがエロいんですケド……」 この後「恋人だからいいだろ」―――とか言いながら迫ってくるエロ兄貴をなんとか撃退するあたしなのであった。 ったく、油断も隙もないんだから…………。 まあ、ちゃんとやっつけたし?何もなかったから安心してね。…………いや、マジでマジで! こほんっ……えと、話の続き。 この『きりたん事件』が付き合い始めてまだ数日くらいのことで、正確にはお正月明けくらいのことだったかな。 それから数日が経ったある日、両親が一日、家を空けることになった。 うちはお父さんとお母さんが揃って家を空けることがままある。 だいたいは法事とかの理由でなんだけど、多分デートもしてると思う。 うちのお父さんとお母さんは結構アツアツなのだ。 ――そして当日、お父さんから夕食のお金を貰い、玄関で両親をお見送りする京介とあたし。 「では、行ってくる」 「あんたたち出かけるなら戸締りと火の用心はしっかりしてね」 「はいよ」 「大丈夫だってお母さん。京介がマヌケでもあたしがついてるから」 「じゃあ桐乃、お兄ちゃんをお願いね」 「うん、任せて!」 「……言いたい放題言ってくれるなあ、おい」 「ふふふ、じゃあ行ってくるわね」 「「いってらっしゃい」」 パタン――と玄関が閉じられる。と、そこで京介が話しかけてきた。 「さて、今日はどうするよ」 「デートのこと?」 「おう、どっか行きたいとこあるか?」 「んー……」 どうしようかな……現在の時刻は夕方には少し早い時間。 デートもしたいんだけど……実は、昨日やったエロゲーで手料理を作ってあげるシチュに萌えたんだよね。 だから今日は、天才料理人であるきりりんの手料理を京介に奮ってあげようかなーって、ね。 あたしがそう考えていると、京介がこんな提案をしてきた。 「出かけんのもいいけど、今日は家でデートするってのはどうだ?」 「え?家で?あんたエロゲーしたいの?」 「なんでそうなる!……家でデートっつったらさ、他にも色々あるだろ?」 「ん~……エロゲ以外の家デートかあ……」 なんかあるかな? …………うーむ、思い付かない。 「たとえばどんなの?」 「ふっ、よく聞いてくれた。たとえばだな、布団でいちゃいちゃしたり、ソファでいちゃいちゃしたり」 「…………」 「あとは、一緒に洗いっこなんてのもいいな!泡々デートってとっても素晴らしいっ!どうだ桐乃、魅力的な提案だと思わないか?」 「却下に決まってんでしょ!?このエロっ!ヘンタイ!死ね!」 案の定エッチな提案をしてくる京介。 まったく……どうして、こいつの思考回路はエッチな方向にしか働かないの? 「なぜだっ!?どう考えても完璧なデートプランだろう!?なあなあ、あったかいお風呂で泡々デートしようよ~?」 「あんたがしたがってるのは、デートじゃなくて泡々プレイの間違いでしょ!?どんだけケダモノなわけ!?」 「……チッ」 「舌打ちされたぁ!?」 「んなら、お布団デートでいいよ。これなら文句ないだろ」 「全然わかってないしっ!ダメに決まってんでしょ!」 もうっ!あたしがしたいイチャイチャはそういうことじゃないのに! きっと京介の頭の中には煩悩しか詰まっていないのだ。…………まあ、正直あたしも家デートはしたいけどさ。 今日はそれよりも手料理を作ってあげたいのだ――彼女らしく。 「くそぉっ……お布団も駄目だというのか……!俺の情熱が伝わらないとはっ……!」 「あんたがあたしにエッチなことがしたいってのはよく伝わった」 「誤解を招くような言い方はよせ。その言い方だと、まるで俺が親のいない日を狙っておまえにエッチなことをしようとしてたみたいじゃねーか」 「キモッ!親のいない日狙うとか、そんなこと考えてたの!?」 「考えてねぇーよ!」 嘘乙ッ!絶対考えてましたぁー! …………と、言ってやりたいところだけど、話がややこしくなりそうなので我慢する。 「……ったく、ほんっとスケベなんだから。……まあいいや、あんたは伝説級の変態ってことで」 「おい、勝手に納得してんじゃねえよ」 「はいはい――それよりさ、あたし行きたいとこあんの」 「……行きたいとこあるなら最初から言えよ」 「なに?なんか言った?」 「いえいえ、なにも。桐乃様のお望みとあらばどこへでもお伴させていただきますよ」 「ん。ならよし」 ―――それから一時間後、スーパーで買い物を済ませ、我が家へ到着。 迷ったんだけど、今日は肉じゃがにすることに決定。京介の好物でもあるしね。 ドサッ……と、スーパーの袋を、床に下ろす京介。 「よっと……」 「ご苦労さま」 「へへっ、まさかおまえが手料理を作ってくれるなんてなあ」 「楽しみ?」 「そりゃあな、彼女の手料理が楽しみじゃない男なんてこの世に存在しないって」 「そか……なら頑張っちゃおっかなぁ~」 「期待してるぜ、桐乃」 「ふひひっ!任せときなさいって!」 さて、京介の期待に応えるためにも頑張って作るとしますかね。 まずは―――皮を剥いて。 ……………うーん、調味料? みりん?お酒?お醤油? ……………お塩だっけ?お砂糖だっけ? よくわかんなくなってきたケド――愛情たっぷり入ってるし何とかなるよね♪ あたしの肉じゃが食べたら京介悶絶するんじゃね?ふひひ~っ。 そして二時間後――― 「……ゲホッ!ゴホッ!」 京介が悶絶していた。 「えっと、むせるほど美味しいってこと?」 「んなわけねーだろ!毒物かと思ったわ!」 「うっそだあ……あたしが作ったんだよ?」 「なら……食ってみろよ」 「う、うん」 ぱくっと一口、お肉を放り込む……と。 「まっずぅぅ――――ッッッ!」 ―――食後、あたしと京介はリビングのソファでくつろいでいた。 「うぅ~……まだ舌がピリピリする……」 「まさか、おまえにこんな弱点があるとはな」 「……悪かったわね、ろくに料理も作れない彼女で」 「んなこと言ってねーだろ?おまえが一生懸命作ってくれたのは分かってるって」 「ふんっ……」 京介はあんなに不味い肉じゃがを全部食べてくれた。 無理してんのがバレバレだっての…………嬉しかったけどさ。 ……ちゃんと練習して、今度こそ美味しい手料理を食べてもらわなきゃ。 このままじゃ、悔しいもんね。 「あの、さ、美味しく作れるようになったら……また食べてくれる?」 「おう!もちろん!てか、俺が練習台になってやるからさ。いつでも作ってくれていいんだぜ?」 「ん……がんばる」 「楽しみにしてるからさ、頑張れよ」 そう言って、あたしの頭を撫でてくる京介。 なでなでなでなで――とても穏やかな時間が流れる。 今はもうそんなことはしないけど、以前はこうされると、恥ずかしくて手でパチンとはたいたりしてたっけ。 「さらさらだな、おまえの髪」 「…………きも」 こうしていられる時間を幸せっていうんだと思う。 京介はどうだろう…………いま幸せって感じてくれてるんだろうか? ちょっと、不安になってしまった。こういうところはあたしの悪い癖だと自覚がある。 でも、一度気になりだすと確認せずにはいられない。聞きたい……でも、ちょっぴり怖い。 そう思いながら京介を見ると――― 「どうした?」 「あのさ……えっと」 「――桐乃、もうちょっとこっち来い」 「な、なによ……」 「いいから」 まったく、こいつはあたしの気も知らないでニコニコしちゃって、こっちは聞きたいことがあるんだっての。 頭の中には『京介もいま幸せなのか』その不安がグルグルと渦巻いたまま、あたしがおずおずと京介に近づいていくと―― ぎゅっ――と、抱きしめられた。 「あ、あんたなに……」 「付き合ってるんだから別にいいだろ?」 「そ、そういうことじゃなくてっ!なんでこのタイミングで……ってこと」 「いい匂いすんな、おまえ」 「……質問の答えになってないんですケド」 いい匂いとか……!キモッ!こいつキモすぎっ!そういうこと口に出して言う!?うぅ~……汗くさいとか思われてないかな。 てかっ!あんまりくっつかれると心臓の音がバレそうで恥ずかしいっつうのっ! いま、チョードキドキしてんのに…………!ああ~、京介の匂いで頭がくらくらしてきた……。 だめだ――抱きしめられてることと、こいつの匂いのせいで考えがまとまらない。 あたしが悶絶していると、京介がこんなことを聞いてきた。 「桐乃――いま、幸せか?」 「………決まってんでしょ」 …………なんだ、同じこと考えてたんだ。あたしはくすっと笑いながら応える。 「あんたと同じ」 ―――リビングで幸せな時間を過ごした後、京介が食器を洗っている間、あたしはお風呂に入ることに。 実は、ドキドキしすぎて汗かいちゃったから気持ち悪かったんだよね。サッパリするとしよう。 あたしはお気に入りのメルルの入浴剤を浴槽に入れ、肩までゆっくりと浸かる。 「はあ~~~ッ……いいお湯~~♪」 そういえば、今日は夜から雨降るってニュースで言ってたっけ。もう、降ってるのかな? そんなことを考えているときだった――― フッ――っと、電気が消え、一瞬でお風呂場が暗闇に包まれた。 「ひゃっ……!な、なに!?停電……?」 視界が奪われ、聴覚に集中するとすごい豪雨の音が聞こえてきた。 …………雷、鳴るのかな…………。 あたしは、苦手な雷が鳴ることを想定してカラダを強張らせる。 すると、案の定ものすごい轟音が鳴り響き、あたしは小さく悲鳴をあげる。 「きゃっ!」 怖い………。 カラダが緊張して石みたいに固まってしまい、湯船から動けない。 あたしが震えていると、すぐにドタドタという足音が聞こえてきた。 「桐乃ッ!大丈夫か!?」 京介の声が聞こえた瞬間、すう―っと、緊張が解けていく。 「だ、だだだ、だいじょぶに決まってんじゃん!?」 「なるほど、全然大丈夫じゃなかったんだな」 「なッ―――なわけないっしょ!」 「へいへい、そういうことにしといてやるよ」 なんか既視感。……ずいぶん前に、こんなやり取りをしたような気がする…………そうだ。 たしか、あの日も雷雨の夜で、京介が来てくれたっけ。 あの時はまだ仲が悪くて……でも、兄貴はずっとそばにいてくれた。 懐かしい想い出。 「ねぇ――」 「なんだ?電気が点くまでここにいてやるから心配しなくていいぞ」 「……そばにきてよ」 「?おう、だからここにいる……って、えっ!?」 「お風呂デート、したいんでしょ?」 「ま、マジで……!?」 「懐中電灯消して……あくまでも、そばにきていいだけだから。……さわったりしたら殺す」 「お、おう……。んじゃ、入るぞ……」 懐中電灯の頼りない灯りが消え、ガチャ―っと、扉を開ける音が暗闇の中に響く。 絶対見えてないだろうけど、今さら恥ずかしくなってきて、あたしは湯船の中で体育座りをする。 「真っ暗だな。……なんも見えねぇわ」 「もし、見えてたとしたら殺すからね」 「おっかねえやつだなぁ……俺はおまえにハダカ見られたって気にしないぞ?」 「あたしは気にするの!こっち見ないでよね!」 真っ暗だからまだ耐えられるけど……もし―は、ハダカなんて見られたら死んじゃうじゃん……あたしが。 「んじゃあ、俺は何してりゃいいんだよ。泡々デートするんじゃなかったの?」 「あんたはここにいるだけでいいの。……つーか、泡々デートじゃなくてお風呂デートだし」 「どう違うんだよ」 「お風呂デートはおさわり禁止だから」 「……それは俺の求めていたものと少し違うんだが」 「ぜーたくいうな」 京介のおかげで雷が気にならなくなった。 うん、もう怖くない。 「ねえ、覚えてる?」 「なにを?」 「前にもさ、こんなことあったでしょ」 「んー、ああ……あったな。ありゃたしか、おまえとまだ仲悪かった頃だな」 「そうそう。あの頃はあんたとこんな関係になるなんて、思ってなかった」 「ははっ、俺も」 懐かしいよなぁ――と、京介は笑う。 今日のこともいつか思い出として懐かしむ日が来るのかな。 その時も幸せでいられたらいい……できれば、二人で一緒にいられたら―― 「……なあ桐乃、あのさ――」 「!な、なにっ!?」 妄想中に声をかけられ、あたしは立ち上がってしまう―――と、その時、急に視界が明るくなった。 どうやら電力が回復したらしい……。 一安心したのもつかの間、はっ―とあたしは現在の状況を思い出す。 前を見ると、鼻血を垂らしてる京介と目が合った。 「あ……」 「お、落ち着け、桐乃……これが事故だということはおまえにも分かっているはず……」 「―――――」 「よし、オーケー、とりあえず深呼吸をしろ……はい、ひっひっふー」 「!そ、そそそ、それは赤ちゃん産む時のでしょっ!?」 「そ、そうか……おまえ、まだ妊娠してないもんな」 「な、ななな、な………っ!な、なに言ってんの!シャレにならないこと言うなァ――!」 「ぶえっ……!」 あたしは京介に洗面器を炸裂させ、なんとか貞操の危機から回避したのだった。 ちなみに、この日の晩も一緒に寝たんだけど…………。 気まずくてろくに顔も合わせられない二人なのであった―― そして、冬休みが終わり、新学期が始まった。 今日は、三学期が始まってから最初の日曜日。休日を二人きりでデート―――ではなく、いつもの仲間たちと遊んでいる。 「……美味しい」 「さっすがきりりん氏、料理も簡単にこなしてしまうとは拙者驚きましたぞ」 「ふふん♪そうでしょ?」 「そうね、さすがはクイーンオブビッチと言ったところかしら」 「……あれから毎日、俺がおまえの練習台になったんだがな……思い出すだけでよく今日まで生きてたと思うよ」 初めての手料理を作った日から、京介は毎日あたしの料理を食べて感想を言ってくれた。 ……何度か顔を真っ青にしてたことは、この際忘れることにしよう。 そして、ようやくまともなものを作れるようになったので、今日は黒猫と沙織たちを呼んで腕を振舞っているという場面。 「フッ……いい様ね、先輩。愛する者の手料理で死ねるなら本望でしょう?」 「……アンタ、性格暗くなってない?」 「クックック……勘違いしないで欲しいわね。――私の性格が暗いのは前からよ」 「いや、最近のあんたは完全にヤバイ電波受信しちゃってるって」 「ふ、ふんっ……放っておいて頂戴」 「まあまあ……しかし、京介氏は意外と辛口コメントをおっしゃられるようで」 そう、京介はマズイものはハッキリとマズイと言う信念があるらしく、この数日あたしも料理をマズイと言われ続けたのである。 ぶっちゃけ、チョームカいた! ただ、絶対に残さないことも信念らしく、あたしの出来そこないの料理をいつも残さず食べてくれた。 「まあな、でもそれが相手への礼儀ってもんだと俺は思うんだよ」 「そして、文句を言いつつも残さず食べる、と……ふふ、さすが京介氏」 「へっ、そりゃあ、愛する彼女の手料理を残すわけにはいかねぇからなあ」 「おやおや?また、惚気が始まるのですかな?」 「いや、惚気っつうか、不満がないわけじゃねえよ?桐乃のやつも草ばっかり食わせてくるしさぁ」 こいつ……また同じこと言ってる。 だいたい草ってなによ。草じゃなくて野菜でしょ?あたしは京介と沙織の会話に口を挟む。 「あたしはヘルシー志向なの。お肉ばっかり食べられないの。売れっ子モデルなわけ。オーケー?」 「いや、わかってるけどよ。……もうちょっと何とかしてほしいっつうか」 「京介氏ぃ、きりりん氏はこうおっしゃりたいのですよ」 「あん?」 「大好きなお兄ちゃんにはお肉じゃなくて、あたしのカラダを食べてほしいの~、とまあ、こんな感じでしょうか?」 「なぁ……っ!?」 「なん……だと……?」 なに言ってんだ!このグルグル眼鏡はぁぁあぁーーーーーッッ! あたしが混乱していると、京介は「そうかそうか」と頷きながらあたしの頭に手を乗せて、優しく撫でる。 「なるほどな、桐乃は俺に食べられたいから、草ばっかり食わせてきてたんだな」 「な、ななな、ななっ……ななっ!なわけないでしょ!?キモッ!まじきんもーっ!へ、変な勘違いすんなッ!」 「おい沙織、おまえの桐乃語翻訳ではなんて言ってると思う?ちなみに、俺の翻訳によれば――」 は、はあ!?な、なに?桐乃語翻訳ってなんなのっ!? しかも、なんか超ニヤニヤしてるしっ! 一方で、沙織は呆れた顔をしている。 「京介氏……ずいぶん変わられましたなぁ。色々な意味で」 「ふっ、まあな」 「いやいや、あんた……いまの絶対褒められてないからね?」 付き合ってからの京介はたぶん、頭のネジが何本か抜けてしまったんだと思う。 前はこんなに、エッチ……だった。うん、エッチなのは前からだった。 ……アレ?……実はあんまり変わってないカモ。 「ふう……実の妹に対して性欲を全開にするなんて、やっぱり最低の雄ね」 「作為的な表現はやめていただきたい。俺は、純粋に桐乃の可愛さを愛でていただけだ」 苦しい言い訳をする京介。 と、その時、ピンポーン――と、チャイムが鳴る。 「あ、来たのかな?」 「おし、俺が出てくるわ」 京介が玄関に出迎えにいく―― 「ふふふっ……我が同胞である闇天使がついに来たのね……。これで役者は揃ったわ――闇の宴の始まりね」 「あんたいい加減に厨二病卒業しなさいよ」 「いやーはははっ、今日は騒がしくなりそうですなあ」 ガチャ― ドアが開き、見慣れた顔があらわれる。 京介の後ろにはあたしの表の友達である、あやせと加奈子の姿。 「さあ、入ってくれ」 「はい、おじゃまします」 「いらっしゃーいあやせ。待ってたよ」 「あっ、桐乃、久しぶりだね!」 「えっ?……いや、あやせとはガッコで毎日会ってるじゃん?」 「ええ~?だって、学校で会うのとはまた違うし、最近の桐乃なかなか遊んでくれないんだもん……」 ……うん。たしかに、京介とデートばっかりしてるからあやせと遊ぶ機会は減っちゃってる。 今度ショッピングにでも誘って、一緒に遊ぶとしよう。 「おいあやせ、立ち止まってねーで早く入れよ。後ろがつっかえてんだよ」 「あ、ごめんね。わたしったら、すっかり加奈子の存在自体忘れちゃってた。……テヘッ♪」 「うへぇ……デビルあやせ降臨してるよ……」 「うん?なにか言った、加奈子?」 「いえいえ!なんでもないッス!」 あやせと恒例のやり取りをする加奈子。 この二人は、見ていて飽きない。 「加奈子いらっしゃい」 「おう。なんかー、桐乃がご馳走してくれるってゆーから、来てやったぜぇ」 「ひひっ、期待してていいよ!」 「お、自信満々じゃねーの。ゆっとくケドぉ、師匠のおかげで味にはうるさくなってんだゼ?」 「へっへっへー、だいじょーぶだって!」 「桐乃がそういう顔するってことは、マジで美味いんだろうなァ……」 「まっかせなさーい」 「チクショー!なんか、もう食う前から負けた気分だぜ~~~ッ!」 どうやら加奈子は、料理のウデで負けたくないらしい。 まあでも、残念ながらあたしの方が絶対に上だけどねっ! 加奈子とあやせをリビングへ招きいれ、あたしはキッチンへ。 「さーてと、あやせたちの分も用意しなきゃ」 「桐乃、俺も手伝うぜ」 「ん、サンキュ」 大人数が押しかけ、手狭になった高坂家のリビングは、こんな感じで賑やかな時間が流れていく。 明日も、そのまた明日も、京介と一緒に友達と楽しくいられたらいい。 あたしは心からそう願うのだった。 ―――それから、時は流れ、春になった。 あっという間だった、たった三ヶ月の恋人期間。 今日、あたしたちは卒業式を迎え、そして―――二人きりの結婚式を挙げた。 「はあ…………」 自然と溜息が出てしまう。この溜息も、もう何度目か分からない。 あたしと京介は結婚式の後『普通の兄妹』に戻り、今夜からは別々。 部屋に一人でいることがとても、寂く感じてしまう。 ………あたしの部屋ってこんなに広かったっけ? いますぐ京介の部屋を訪れたい衝動を必死で我慢する。 「…………もう寝てるのかな」 そんな独り言をつぶやきながら、ふと、壁を見る。 すると、あるものが目に留まった。 「あ……そうだ」 あたしは壁にかかっているそれを手に取り、抱きしめる。 「……着てみよ、っかな」 京介から貰った大切な宝物に袖を通す。 「うわっ、ブカブカ。あいつこんなに大きかったんだ」 「……へへっ……ばかじゃん」 あたしは宝物をパジャマ代わりにしてベッドに倒れこむ。 ―――まるで、京介に抱きしめられているような感覚。 「…………っ」 「……うっ……うぅ……っ!」 熱いものがこみ上げてきて頬を伝う。 泣かないって決めてたのに、感情を抑えることができなかった。 もう、大好きな人はそばにいてくれない……これからずっとひとりなんだ……。 ―――この日あたしは、夢を見た。 まどろみの中……あたたかいものを感じる。 目を開けると、あいつがいつものように、あたしを優しく抱きしめてくれている。 「……京介?」 「……ん?どうした?目ぇ覚めちまったのか?」 そう言いながら、京介はあたしの頭を優しく撫でる。 「心配しなくても俺はずっとおまえのそばにいるよ。――ずっと一緒だ」 「……ん」 あたしはその言葉に安心して目を閉じる。 きっと、これは夢。 優しい夢を見ているだけ――― 翌日、あたしが目を覚ますと、隣に京介はいなかった。 「……だよね」 たぶん、パジャマの代わりにしたものに染み付いた匂いのせいで、変な夢を見てしまったっぽい。 アイツの匂いがあたしのベッドからするのも、きっとそのせいだよね? 「―――よしっ!」 今日は、アキバのメイド喫茶で『オタクっ娘あつまれー』のオフ会がある。 あたしたちはちょっと特殊なメンバーなんだけど……そこに新しい仲間が加わるみたい。 新人さんも来ることだし、気持ちを切り替えて思いきり楽しまないとね! 「よーっし!気合入れて、あいつを起こしにいくとするかーッ!」 なんだか、今日はとっても良いことが起こりそうな予感。 そんな確信めいた何かを感じながら、あたしは京介の部屋に向かうのだった。 そして――この予感は現実のものとなる。 この日、あたしと京介は新たな人生相談を始めることになるのだが、それはまた別のお話――― ―おしまい―
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1103.html
208 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/16(金) 05 07 08.74 ID W2BXnwSn0 [1/11] 10巻まで待っていたら アメリカ留学の桐乃のごとく、プレッシャーで押しつぶされそうになるので 京介→桐乃告白シーン(妄想)を書いてみました。 なお、黒猫には散り際に花を持たせていますのでアンチ黒猫な方はご注意ください。 注意※黒猫の恋愛色強め 登場人物:京介、桐乃、黒猫 特別出演:あやせ タイトル:「解呪、そして・・・・・」 「三度”約束の地”で京介をまっているわ。」 俺は再び黒猫のメールで呼び出された。 秋も深まった夕暮れ、俺は黒猫に告白された校舎裏にやってきた。 虫の音が響く校舎裏のベンチにいつものゴスロリではなく見慣れない制服をまとった黒猫が座っていた。 「それが新しい学校の制服か?」 俺が声をかけると、彼女はそっと立ち上がる。虫の音にかき消されるかのような小さな声で 「・・・待っていたわ」 「・・・・・」 俺は無言で黒猫の顔をみる。黒猫の瞳はカラーコンタクトが入れられてもいないに関わらず 夕日を受けて赤い光を放っていた。そしてその目はこれから語られるであろうことを最後まで聞くと 決意を宿らせていた。 「あの日は、あの女の放つ邪気に当てられて、最後まで聞くことはできなかったわ。」 「今日は最後まで京介の言葉を聞かせて頂戴」 俺は黒猫の決意を宿らせた目に圧されながらもゆっくりと口を開いた。 「・・・黒猫、今でも俺のことが好きか?」 その言葉を聞いて黒猫は不敵な笑みを浮かべた。 「ええ、好きよ。桐乃が京介を好きな気持ちと・・・同じくらいに・・・」 「あの女が、・・・あれほどの想いを・・・内に秘めていたとは計算外だったわ」 「そうか。」 あの日、俺はむき出しの桐乃の感情を目の当たりにした。いつものように強引で高圧的な桐乃ではなく アメリカで好きなこともできず、一人きりでがんばりプレッシャーに押しつぶされそうになってもなお 帰国を拒む妹と同じような桐乃から・・・・。 ”あたしは兄貴が大嫌い。だけど、だけど---兄貴に彼女ができるのなんて絶対イヤ! 嫌いだけど、すごく嫌いだけど・・・・・あたしが一番じゃなきゃイヤ!” ”あたしは京介に彼女ができるのなんて絶対にイヤ。だけど兄貴が泣いているのはもっとイヤ。・・・・” あのときの桐乃の言葉が頭の中に木霊する。俺はその言葉の持つ意味を理解できていない。・・・いや、 それが持つ本当の意味を認めたくないのかもしれない。 兄貴としては失格だった俺 そして俺のことを一人の男性として想いを寄せていた桐乃 兄妹なのに・・・・・ しかしあのとき桐乃の想いを確かに気づくことができた。 それと同時に俺の中に急速に育まれた想いがあった。 桐乃の俺に対する想い、俺が桐乃に対する想い、それらはあの日あの場所で捨て身でがんばったあいつらに よって気づかされ、育まれた。 しかしそれとは別に、俺の選んだ選択肢が導き出す何か漠然とした不安も・・・・・ それは何なのだろうか。 整理のつかない頭を振りながら 「・・・黒猫、俺は・・・・・」 「まって!!」 黒猫の言葉が、俺の言葉を止めた。その顔にはアメリカから桐乃を連れ帰る決意を決めた俺を送り出したときと 同じ想いを浮かべていた。 「わたしの話はまだ終わっていないわ」 「・・・わかった」 俺がそう答えると、黒猫はあの温泉で桐乃の嫉妬心を受け止めたときのようにより険しい顔になった。 「京介、あなたのことは今でも・・・この”約束の地”で再び”儀式”を行ったときに負けないくらい・・・好き」 「でも、桐乃の本心を聞いて・・・やはり、わたしは・・・」 黒猫の体が小刻みに震えた。あの温泉地で自分の命を人質にして俺の言葉を止めたときのように。 俺は黒猫が倒れる前にその体を支えようとした。 「・・・さわるな!」 胸の奥に秘める己が想いのすべてをぶちまけるような声を放った。 それを聞いた俺は、さながら言霊に秘められた魔術に動きを封じられたが如く動くことができなかった。 深呼吸をしながら自分を落ち着けた黒猫は、再び俺に瞳を向けた。その瞳にはより一層決意の炎が宿っていた。 そしてゆっくりと言葉を紡いだ。 「そして、わたしは・・・京介が桐乃を想う気持ちに負けないくらい・・・桐乃のことが好き」 その言葉を聞いた瞬間、俺は愕然とした。 そして、俺が抱いていた漠然とした不安が何なのかも・・・・・ 人生はエロゲーと違ってセーブができない。 俺がここで選択をミスれば、桐乃と黒猫の関係が壊れてしまう。 そして沙織と約束したことも果たせなくなってしまう。 それが俺が抱いていた漠然とした不安だった。 黒猫の言葉を聞いた俺は、自分のこれからの選択が間違っていないことを確信した。 「・・・黒猫、終わりか?」 「ええ・・・」 「そうか」 「京介、あなたはどうするの?」 あの温泉での言葉とまったく同じ言葉を同じリズムで放った。 「俺は・・・桐乃が好きだ」 「・・・妹としてかしら?」 「いや、俺はあの日から妹を・・・いいや桐乃を妹として見られなくなった。」 「・・・・・」 「俺は桐乃を一人の女性として好きだ。だからおまえとはちゃんと別れようと思う」 俺は黒猫から視線を逸らさずに言った。 「・・・・・いい目をしているわね」 そういうと黒猫は、 「最後の『儀式』をしましょう」 そう続けた。 「儀式?」 「そう『儀式』。前にあなたに言ったわよね。呪いはより強力な呪いでしか上書きできないと」 前と同じで電波入ってるよ。でもこれをしないと、黒猫としても区切りはつけられないだろう。 「わたしが、あなたと別れたと同時に呪いは解けている。でもあの呪いは、まだあなたの体に残っている」 「前にもそんなこと言ってたな」 「だから新しい呪いで上書きするわ」 「そうか、それじゃやってくれ」 俺がそういうと黒猫は「目を瞑って頂戴」と呟いた。 「こうか?」 俺が目を瞑ると・・・・・ 唇に温かい、そうちょうど人間の体温のようなしっとりとしていて・・・それでいてやわらかいものが触れた。 「ん!!!!!!」 俺は、驚きのあまり目を開けた。 目の前には、優しく目が閉じられた黒猫の顔があった。その頬は赤く高揚している。 そして俺の唇には、黒猫の小刻みに震える唇が触れていた。 黒猫はゆっくりと後ろに下がると、うつむいてしまった。黒い髪の間から見える頬はまだ赤く高揚していた。 「これで呪いの上書きは終わったわ。」 「そうなのか」 何とも間抜けな返答だ。 ザッ!!! 背後で人が走り出すような足音がした。 見られた?!!!!!!! 学校でこんなことして!しかも相手が転校した元彼女じゃん。 ”セクハラ先輩”だけじゃすまないぞ! とパニクりながらも俺は足音がした方に振り向いた。 そこには、桐乃と同じ学校の制服を着た茶髪の女の子が走り去っていく姿があった。 ---ってか”桐乃”じゃん。 状況を整理できてないというか茫然自失というか完全にフリーズしている俺に対して 「追いなさい!呪うわよ」 邪気眼厨二病全開の口調で黒猫が呟いた。 その声を聞いた俺は、一瞬で現実世界に戻され、黒猫のほうに振り返ることなく桐乃を追いかけた。 しかし桐乃との差を詰めることができない。それどころかどんどん離されていく。 さすがはアメリカ留学まで勧められた陸上選手。俺ごときじゃ追いつけないのか。 でもここで誤解を解かなければ、俺が選んだ選択肢は無駄になってしまう。 普通、エロゲーとかなら何かのイベント起きて追いつけるだろ。 まぁ事故とかもあるけど、それだけは考えたくない。 走って追いつかなければ、携帯で呼び出せば・・・・ 俺はポケットから携帯を取り出した。 取り出すときもなるべく桐乃との差が開かないように走るスピードは緩めなかった。 脇目で携帯の画面を見ながら桐乃の番号を選んで、呼び出しボタンを押した。 前の方を走る桐乃からは携帯の呼び出し音が聞こえる。 しかし桐乃はそれを無視して走り続ける。 取ってくれよ!桐乃; 呼び出しを続けながら、なおも桐乃を追いかけた。 はるか前方の角を曲がったことを確認して、俺もそこを曲がった。 しかしその先には桐乃の姿はなかった。 携帯の呼び出し音も、もう聞こえない。 「はぁはぁはぁ、どこかの路地に入ったのか?」 俺は独り言を言いながら、片っ端から路地を調べた。 「どこに行ったんだ・・・・・」 俺は途方に暮れ、その場に膝をついてしまった。 一度立ち止まってしまうと、なかなか走り出すことはできない。 しかも走り過ぎて酸欠を起こしたのか、いろいろな情景が走馬灯のようにぐるぐると頭の中を回り始める。 死ぬ瞬間ってこんなのか? --俺を罵倒する桐乃 --恥ずかしさのあまり逆ギレする桐乃 --メルルのコンサートでオタク連中に負けじとはしゃぐ桐乃 --落ち込んでいる俺を優しく慰めてくれる桐乃 いろいろな情景ってたって、全部桐乃じゃん。俺、どんだけ桐乃が好きなの! 情景という名の妄想が浮かんでは消える。 --悔しさで涙を流す桐乃 その情景が浮かんだ瞬間、俺はハッっと我に返った。 俺・・・また・・・あいつを・・・桐乃を泣かせてしまったのか。 あいつの彼氏になるなら二度と泣かせないように誓ったのに・・・・・。 情けなくなってきた。 情けない自分がいやで拳を地面に擦り付けながら、今の状況にじっと耐えようとした。 俺、あれだけエロゲーやったのにリアルじゃ全然ダメじゃん。 ピリリリリリ・・・・ 俺の携帯がなった。 桐乃か!? あわてて携帯を見ると1通のメールがあった。 差出人は”あやせ” そしてメールには『お兄さん、お話があります。至急いつもの公園まで』と簡潔に記されていた。 あやせはいつも淡白なメールを寄越すな・・・ 一番長かったのは、桐乃と仲直りさせた後の脅迫メールだよな。 もうあんな恐怖はもう味わいたくないけど。 これ以上ここで途方に暮れていても桐乃は見つけられない。 もしかしたら、あやせが電話すれば出るかもしれない。 そんな期待から、俺はあやせの待つ公園に向かった。 公園に行くと、いつものベンチにあやせがいた。 その隣には・・・・・桐乃が!! 二人の姿を確認すると、俺は急いでそばに駆け寄った。 桐乃がいるので、どう声を掛けていいかわからない。 俯いて無言でいる俺に向かってあやせは開口一番 「最近、わたしにセクハラしないと思ったら、後輩にセクハラしてたんですか!しかもあの泥棒猫に!!」 俺を伏魔殿に誘い込み、手錠拘束プレーやろうそく火あぶりプレーをしてきたあやせをはるかに凌駕する 形相で睨みつけてきた。 いや、ろうそくではなく、ライターだったか・・・・てか冷静に自分の思考にツッコミを入れてどうする。 パニくってる俺に容赦ない上段回し蹴りが炸裂した。 久しぶりにいい蹴りしてるぜ! 空中で2回、3回と回り5mほど後方に顔面から落ちた。いや落ちたというかほとんどスライディング。 あやせ、今度K-1でろよ。。。。。 意識が飛びそうになるが、ここで飛んではあそこであの選択肢を選んだ意味がなくなる。 俺にはロード機能がないんだ。 とわけがわからない思考をしながら何とか立ち上がった。 そして、あやせではなく桐乃に真っ直ぐと体を向けた。 「!!!!!!!!!!!」 桐乃は俯いていたが、きれいな流れる茶色の髪の間から見える頬には、光るものが見える。 泣いている。 やはり、俺はまた桐乃を泣かせている。 情けない・・・・・ しかしここで動かなければ何にもならない。 動け!俺の口!そして俺の体よ! そう自分に言い聞かせて、桐乃に歩み寄りながら言葉を紡いだ。 「桐乃、聞いてくれ!」 その言葉を聞いた。桐乃は一瞬ぴくっと反応したが相変わらず俯いたままだった。 「桐乃、俺は・・・・・」 口の中を切ったのか痛みが走り、言葉を続けることができない。 そうしていると・・・・・ 「あたし・・・誓ったんだ。あんたが・・・京介が・・・あたしか黒いのかどちらを選んだとしても 一生あんたのそばにいようって・・・」 「でも、それでも・・・あんな光景見せられると、やっぱり耐えられない・・・・」 「違うんだ、桐乃!」 「何が違うのよ!」 俯いていた桐乃が俺のほう向いた。その顔は怒りではなく、涙で化粧が崩れてぐちゃぐちゃになって はいたが、悔しさと情けなさが現れた・・・アメリカで趣味や友達とのおしゃべりもせず、ただ黙々 と練習に励み、そして挫折と重圧に押しつぶされそうになっていたあのときの桐乃そのものであった。 俺はその顔を見て、一瞬言葉を失った。 もし・・・ここで誤解を解かなければ、こいつは壊れてしまう。 何があってもそれだけは避けなければならない。 桐乃の両肩をつかんで俺は言葉を続けた。口の痛みなんて知ったこっちゃない。 こいつが今感じている痛みに比べれば、屁でもないぜ。 「聞いてくれ!」 「聞きたくない!」 桐乃は一向に俺の話を聞こうとせず、俺から逃れようと体を左右に振る。 もうこうなったら・・・・ 俺は意を決して両手で桐乃の頬を押させ、そして・・・・・初めてのキスをした。 俺のファーストキスは黒猫の強奪されたけど;; 「!!!!!!!!!!」 桐乃はあまりの突然のことに両腕をバタつかせて拳で俺の胸を叩いた。 しかし俺は、それでも桐乃の唇を離さなかった。 やがて諦めたのか疲れたのか両腕を下に垂らしておとなしくなった。 それを確認すると、俺はゆっくりと桐乃から唇を離した。 桐乃の開かれた目は潤み、顔は耳まで真っ赤になっていた。 桐乃、マジ天使! 昔、あやせに感じたような台詞が頭に浮かんだが、まずは目的を果たそう。 桐乃が逃げないように、しっかりと抱きしめて桐乃にさっきの事情を説明した。 「よく聞いてくれ、桐乃」 「俺は、あいつに・・・黒猫に『ちゃんと別れよう』って言ってきた」 「・・・嘘・・・・・」 桐乃は、先ほどとは打って変わって今にも気絶しそうなくらい弱々しい声で言った。 「嘘じゃない。ほんとうだ!」 「『俺は桐乃が、妹ではなく、一人の女性として好きだ』って言ったんだ」 「桐乃、俺の彼女になってくれ!」 その言葉を聞いた途端、桐乃の顔はさらに真っ赤ってしまった。 こいつ、まだ赤くなれるのか。このままだと茹で上がるな・・・・ まぁ全部言ったから、これ以上はないだろうけど。 多少時間をおいて落ち着くのを待った。 返事をまだ聞いていないからな。 そして、桐乃が意を決したように口を開いた。 「それじゃ、なんでさっきキスしてたの?」 いや、先に返事でしょ?桐乃さん? そんなツッコミを心の中で入れながら 「あいつが付き合うときの呪いを上書きするって言うから・・・」 「それでキス?」 もうさっきの告白の余韻はなく、桐乃も冷静になってきてるようだ。 もうちょっと余韻楽しみたかったんだけど・・・・ 「そうじゃない、ただ目を瞑ってくれと言われて・・・いくら電波入ってるっていっても 黒猫もプライドがあるだろうから、最後って言うことで従った」 「まさかキスされるとは、思わなかったけど・・・・・せいぜい、額程度だと思ってた!」 しばらく俺の顔を見つめた桐乃は俯いて笑いを堪えながら 「・・・マジキモイ」 言葉にいつもの切れはなかったが、何とか冷静さは取り戻したようだ。 それを確認した俺は、ゆっくりと桐乃の体から離れた。 俺の体から離れた桐乃は、2,3歩後ろに下がって俺の顔を見ながら微笑を浮かべて 「マジキモイ!ほんとはキスされるの期待してたんじゃない?」 「そんなことはない!」 桐乃はゆっくりと俺の右脇に回りこみ、腕を組んできた。 「一生、あたしを離さないって誓ってくれたら、許す」 いきなり恥ずかしいことを言ってくる。 「そんなの当たり前だろ!俺は一生おまえを離さない!」 「・・・・・それじゃ、許す」 桐乃は俺の腕をぎゅっと抱きしめながら満面の笑みを浮かべた。 「そういや、まだ返事聞いてないんだけど」 それを聞いた桐乃はきょとんとしている。 「えっ?さっきのが返事じゃいけない?」 「ちゃんと告白したんだから、ちゃんと返事が欲しい」 桐乃はしばらく考えていたが 「あたしを彼女にしてください」 やっと桐乃から返事を聞くことができた。 ほんとうは俺と桐乃の間には、明確な言葉なんて必要ないのかもしれない。 でもちゃんと、言葉として聞くと今まで以上に安心感が沸く。 「あんた、顔ひどいね」 「!!!!!」 彼女になった途端、容赦なく顔を貶さなくても・・・泣けてくる。 「しかもさっきのキスは、鉄の味がしたし・・・あんなのがファーストキスなんてマジ最悪」 どうやら顔が悪いという意味ではなく、さっきの顔面スライディングのことを言ってるらしい。 「あたしも泣きまくったから、化粧が崩れて・・・」 お互いひどい顔をしている。 アニメやエロゲーだって、もっとかっこよくてムードのある告白があるだろう。 どうして俺たちは、こうも嫌になるほどかっこ悪いことしかできないのだろう。 でも、これが俺たちなのかもしれない。 別に無様でも、かっこ悪くても、俺たちはともに手を取り合って歩んでゆけばいい。 と、かっこよく締めようとすると、背後から炎が揺らめくような音がした。 ここ公園だし、誰も焚き火はしてないよね? そう疑問に思って振り返ると、全身真っ黒なオーラに包まれたあやせが立っていた。 「忘れてた!!」 このあとどうなったかについては、またの機会としよう。 俺が生きていればだけど・・・・・・・・・・ -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1204.html
857 名前:【SS】引越しの日[sage] 投稿日:2011/10/13(木) 15 16 09.59 ID OPN5ryVf0 [3/6] 桐乃「今日は引越しの日だって」 京介「引越しの日ねぇ……俺たちには関係ない話だな」 桐乃「というわけで、あたし引っ越すから」 京介「……は?」 桐乃「お父さんにもお母さんにも了解貰ったし」 京介「…………は?」 桐乃「あとはあんたが許してくれたら、今日にでも引っ越すつもり」 京介「なん……だと……?」 桐乃「それで、あんたはあたしが引っ越すの許してくれる?」 京介「……引っ越す引っ越さないはおまえの自由だと思う。 俺にはおまえを止める権利はねえよ」 桐乃「……そう」 京介「でもな、俺のワガママを言わせて貰えば…… 絶対に引越しなんかして欲しくねえ!」 桐乃「!! その、なんでか聞いていい?」 京介「前にも言っただろ? 俺はおまえがいないと寂しくて死んじまうんだよ。 だから、おまえと離れたくないから、毎日おまえの顔を見て、おまえと話がしたいから、だから反対だ」 桐乃「そっか…… じゃあさ、今と同じくらい― ううん、今よりももっと一緒にいられるなら、引っ越してもいい?」 京介「今よりももっと一緒にいられる? それなら、まあ、反対はしねえな」 桐乃「それなら問題ないと思うよ。 じゃあ、お父さんに報告してくるね!」 京介「おい、桐乃!?」 バタン ダダダ…… 京介「行っちまった…… ……あいつ、どこに引っ越す気なんだ?」 ・・・・・・その晩・・・・・・ 京介「おい、桐乃。 どういうことか説明しろ」 桐乃「今日言ったじゃん。引越しするって。 あんたも了解したでしょ? だからこうやってあんたの部屋に日越してきたんじゃん」 京介「桐乃、これは引越しとは言わねえ。 合併って言うんだ! 俺たちの部屋の間の壁を取り払っただけじゃねえか!」 桐乃「最近部屋が狭くて困ってたんだ。 だから近くに部屋を借りようと思ってお父さんに相談したら、 『引越しするのは許さん。その代わりに京介の部屋を使え』って」 京介「クソ親父ぃぃぃ!」 桐乃「クローゼットも共用の大きいのに変えたし、ベッドもダブルベッド一つになってすっきりしたよね」 京介「俺の部屋の空きスペースは全部無くなったがな」 桐乃「とにかく、今日から毎日同じ部屋に住むんだから、これからもよろしくね!」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1656.html
940 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2013/02/24(日) 10 13 07.09 ID CoqU6X7a0 桐乃「あ!白髪あった!」 京介「え?マジで?!」 桐乃「マジマジ。ぷくく~♪そんな歳で白髪とかどんだけオッサンなんだってのー(笑)」 京介「う、嘘だろ... どんだけ苦労してるんだよ俺...」 桐乃「わ、私が抜いたげる!こ、こっち来なさいよ」 京介「おう、悪いな」 桐乃「....」くんかくんか 京介「見つかったか?」 桐乃「....」くんかくんか 京介「...おーい、桐乃?」 桐乃「へゃ?!な、なにっ?」 京介「白髪あったんだろ?さっさと抜いてくれよ」 桐乃「あ...う、うんっ」ブチッ 京介「いでっ?!もちっと優しくしてくれよ~」 桐乃「う、うるさいっ!抜いてあげたんだから感謝しなさいよ!」 京介「はいはい、ありがとよ。白髪見せてくれよ?どんな感じなんだ?」 桐乃「わ、私が捨てといてあげる!それじゃ!」シュタッ 京介「早っ!なんだったんだ一体....」 ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1472.html
658:【SS】きりりんじゃんけん:2012/05/09(水) 20 17 58.86 ID nCySccJj0 ・・・日曜朝9時前・・・ TV『ぴかぴかぴかりん』 桐乃「ぴかぴかぴかりん」 TV『じゃんけんポン♪』チョキ 桐乃「じゃんけんポン!」パー 桐乃「今週も負けた……orz」 京介「ん? 桐乃、おまえこんな時間のアニメも見てるのな」テクテク 桐乃「あ、おはよう、京介。 あんたこそ珍しく早いね。 いつもなら10時まで寝てるのに。 今日は何か用事でもあるの?」 京介「用事なんかねーよ。 ただちょっと目が覚めてな」 桐乃「ふ~ん。 ……ねえ」 京介「なんだ?」 桐乃「きりきりきりりん」 京介「きりきり? え?」 桐乃「じゃんけんポン!」チョキ 京介「ポ、ポン?」パー 桐乃「よし、あたしの勝ち! というわけで、今日一日あたしに付き合ってね」 京介「は? いや、なんでそうなるんだ? というか、今のはなんなんだ?」 桐乃「きりりんじゃんけん。 勝つと良い事があるけど、負けると罰ゲーム。 あんたは負けたから、今日はあたしの買い物に付き合うの」 京介「なんなんだ、わけがわからん。 ……ところで、勝ったらどんな良い事があったんだ?」 桐乃「そうだね…… あたしが一日付き合ってあげる。 あんたブラコンだから嬉しいでしょw」 京介「なに!?」 桐乃「残念だったね。 せっかく二人でプリクラ取るチャンスだったのにw」 京介「べ、べつに残念なんかじゃねーよ」 桐乃「はいはい。 そんな顔で言っても説得力ないけどね。 まあ、きりりんじゃんけんは毎週この時間にやってるから、 あたしに付き合って欲しければ来週もこの時間に起きてくれば? 負ければあたしの買い物とかに付き合うことになるケド」 京介「そ、そうか。 んで、今日の予定はどうなんだ?」 桐乃「そうだね。 このアニメを見終わってご飯を食べたら、とりあえず一緒に映画でも見に行く? 今このアニメの映画が絶賛放映中なんだよねー」 京介「へいへい。 その代わり来週こそは俺が勝っておまえに付き合ってもらうからな」 桐乃「勝てたらねー。 ま、あっさり返り討ちにして、来週もあたしに付き合ってもらうけどね!」 ----------